「管理職=残業代が出ない」は間違い!残業代が出る判断ポイント4つ

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あなたは、

  • 管理職に残業代が出ないのは普通なのか知りたい
  • 管理職に残業代が出ないのは違法ではないのか知りたい
  • 自分のケースが違法かどうかを確認したい

とお考えではありませんか?

せっかく管理職になったのに、残業時間が減らないばかりか、会社から「管理職は残業代出ないから」と言われ、手取りが減ってしまったら納得できないですよね。

しかし、結論から言うと「管理職に残業代が出ない」というのは違法である場合があります。もしかすると、会社はあなたに残業代を支払う義務があるかもしれないのです。

なぜなら、法律で会社が残業代を支払う必要がないとされるのは、「管理監督者」というごく限られた立場の者であって「管理職」全員ではないからです。

この記事を読めば、「管理職に残業代が出ない」のが違法となる場合の具体的な判断基準が分かるので、自分のケースが違法かどうかを確認できます。

さらに、残業代請求の手順、残業代請求により不利益な扱いを受けたときの対応まで解説しているので、残業代を取り戻す具体的な行動をおこすこともできます。

そこで、この記事では、

1章で管理職に残業代が出ないのは違法である場合があること
2章で違法かどうかを判断する4つの基準
3章で管理職に残業代が出ないことが違法とされた裁判例
4章で管理職が残業代を請求する手順と注意点、 5章で残業代請求後に不利益な扱いを受けた時の対応

について、詳しく解説します。

この記事を読んで、「管理職に残業代が出ない」のが当たり前ではないことを確認し、今後とるべき対処法について考えていきましょう。

「管理職に残業代が出ない」としている会社は珍しくないと思うかもしれませんが、実は違法になる場合があります

その理由は、以下の2つです。

  • 残業代が出ないのは「管理職」ではなく「管理監督者」
  • 「管理職」がみんな「管理監督者」ではない

それぞれ説明します。

1-1 残業代が出ないのは「管理職」ではなく「管理監督者」

1つ目の理由は、労働基準法で残業代を支払う必要がないとされるのは、「管理職」ではなく「管理監督者」だからです。

「管理監督者」を簡単に言うと、経営者に近い立場で会社の重要な仕事を任されており、その立場に相応しい権限と待遇が与えられている者です。

そのため、労働時間の規制の枠を超えて働かざるを得ない事もあるとされ、例外として労働基準法の労働時間、休憩、休日に関する制限が適用されません(労働基準法第41条)。

※労働基準法第41条第2項の「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」が「管理監督者」にあたります。

会社は、36協定の締結により従業員に残業をさせることが可能になりますが、その対価として残業代を支払う義務があります。

※36協定とは、従業員に時間外労働・休日労働をさせるために必要な労使協定のこと(労働基準法第36条)。

しかし、「管理監督者」にはこの36協定が例外的に適用されないため、残業代を支払う必要がないのです。

なお、「管理監督者」であっても、深夜労働に対する残業代や年次有給休暇の取得については適用されます。

1-2:「管理職」がみんな「管理監督者」というわけではない

2つ目の理由は、会社で「管理職」と呼ばれる従業員が、みんな「管理監督者」ではないからです。むしろ、「管理監督者」ではない可能性が高いといえます。

法律上の「管理監督者」と会社が決めた立場にすぎない「管理職」はまったくの別物です。

また、「管理監督者」かどうかは、役職名に関係なく職務内容や権限の実態で判断されますが、厚生労働省が示す判断基準はかなり厳しいものになっています。

会社で重要な役職とされる課長や部長、店長、工場長などの肩書があったとしても、「管理監督者」ではないと判断された裁判例がいくつもあるのです。

1-3:「管理監督者ではない管理職」に残業代が出ないのは違法

以上のことから、「管理職」でも、その職務などの実態が法律上の「管理監督者」ではない場合、残業代が出ないのは違法です。

しかし、正しくは「管理監督者に残業代は出ない」ということを、「管理職に残業代は出ない」と会社が誤用もしくは悪用している場合があるのです。

悪質なものでは、残業代を節約するために管理職の職名を形式的に与える会社もあるようです。 こういった状況は、いわゆる「名ばかり管理職」として社会問題になっています。

「管理監督者」かどうかは、厚生労働省が示す以下の4つの基準に実態上あてはまるかどうかで総合的に判断します。
(参照:厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」

  • 重要な職務内容か
  • 重要な責任と権限を持っているか
  • 労働時間に裁量はあるか
  • 一般従業員と比べて相応の待遇があるか

なお、1つでもあてはまらないと「管理監督者」ではないと判断される可能性があります。

それぞれの基準について説明します。

2-1:重要な職務内容か

1つ目の判断基準は、重要な職務内容を有しているかどうかです。具体的には、職務内容が労働条件の決定やその他労務管理において、経営者と一体的な立場にあるかどうかが基準とされます。

たとえば、以下のような場合は「管理監督者」といえない可能性があります。

  • 会社の経営会議に参加していない
  • 経営会議において発言権がない等、実態は経営方針の決定に関与していない
  • 部下と同様の現場作業や業務が大半を占める

2-2:重要な責任と権限を持っているか

2つ目の判断基準は、社員の労働条件の決定やその他労務管理において、経営者から重要な責任と権限を委ねられているかどうかです。

たとえば、以下のような場合は「管理監督者」といえない可能性があります。

  • 部下の人員配置や人事考課に対する権限がない
  • (店舗等において)従業員の採用や解雇に対する権限がない
  • 多くの重要事項について、上司の判断が必要で裁量がない

2-3:労働時間に裁量はあるか

3つ目の判断基準は、労働時間に裁量があるかどうかです。

たとえば、以下のような場合は「管理監督者」とはいえない可能性があります。

  • 出退勤時間の自由がない
  • 遅刻、早退が減給の対象になっている
  • 一般従業員と同じ勤務態様である
  • 残業を余儀なくされている

2-4:一般従業員と比べて相応の待遇があるか

4つ目の判断基準は、一般従業員と比べ、給与などにおいて相当の待遇を受けているかどうかです。

たとえば、以下のような場合は「管理監督者」といえない可能性があります。

  • 管理職手当がない、もしくは残業代に見合う十分な額ではない
  • 管理職になる前の給与から減っている
  • 一般従業員と比べて年収に大きな差がない
  • 時給に換算すると、一般従業員の給与額に満たない

残業代請求の裁判の中で、原告である「管理職」の従業員が「管理監督者」ではないと判断し、会社に未払い残業代の支払いを命じた裁判例は多くあります

この章では、2つの裁判例で「管理監督者」ではないと判断されたポイントを簡単に紹介しますので、参考にしてください。

3-1:日本マクドナルド事件(東京地裁判決 平成20年1月28日)

■ 従業員(原告)の地位

 ファーストフード店の店長

■ 「管理監督者」ではないと判断したポイント

  • アルバイトの採用や人事考課などの権限は有しているが、店長候補となる社員の採用権限はない
  • 店長会議などに参加はしているが、経営方針の決定に関与していない
  • 形式的には労働時間に裁量が認められているが、勤務態勢上の必要性から残業を余儀なくされている
  • 労働時間も考慮すると、年収が部下より十分に優遇されているとはいえない

3-2:育英舎事件(札幌地裁判決 平成14年4月18日)

■ 従業員(原告)の地位

 学習塾の営業課長

■ 「管理監督者」ではないと判断したポイント

  • 会社の決定事項はすべて社長の決裁が必要であり、何の決定権限もない
  • 経営企画会議に参加していたが、経営事項を協議する場ではない
  • 勤務形態の裁量はあったが、タイムカードにより勤怠管理され、実際の業務態様から出勤するかどうかの自由はない
  • 給与も一般従業員と比べて大きな差はなく、残業時間に見合う額でもない

もしあなたが「管理監督者ではない管理職」なのに残業代をもらっていないとしたら、その分の残業代は未払いとして会社に請求できます。

残業代請求の時効は3年なので、請求すると決めたら早めに動くことが重要です。

残業代を請求する具体的な手順は以下の5つです。

  • 「管理監督者」ではない証拠を用意する
  • 残業した証拠を用意する
  • 未払いの残業代を計算する
  • 会社に交渉する
  • 労働基準監督署に相談する

それぞれ説明します。

4-1:「管理監督者」ではない証拠を用意する

まずは、あなたが「管理監督者」ではないといえる証拠を用意しましょう。

具体的には4つの判断基準にあてはまるかどうかを証明するものになり、たとえば以下のようなものがあります。

職務内容、権限に関するもの

  • 職務権限規程
  • 経営会議の議事録やメモ
  • 業務の方針や目標について指示を受けたメール、書面、チャット等
  • 従業員の採用、人事考課等の決定方法がわかるメール、書面、チャット等

労働時間に関するもの

  • 就業規則
  • 勤務時間、残業、休日等を指示されているメール、書面、チャット等
  • 給与明細書(早退・遅刻による減給がされていないか)

給与等の待遇に関するもの

  • 給与規程
  • 給与明細書

たとえ就業規則などにあなたの役職が「管理監督者」だと書かれていても、実態として4つの判断基準を満たさなければ、それが否定される可能性はあります。

実態上の権限や裁量はなかったことがわかるものは幅広く集めておくことがオススメです。

4-2:残業した証拠を用意する

次に、残業した証拠を可能な限り集めましょう

たとえば、以下のようなものがあります。

  • タイムカード、勤怠管理システムの記録
  • タコグラフ(運送業の場合)
  • 業務日報
  • パソコンのログイン/ログアウト記録
  • 残業指示や残業時間がわかるメール
  • 交通系ICカードの利用記録
  • 位置情報を記録するアプリ
  • 残業時間の記録メモ
  • 家族への連絡(LINEなど)

ただし、証拠が集まらない場合諦める必要はありません。会社は、従業員の労働時間を管理し、記録を保存する義務があるため、会社に開示請求をする方法があります

一方、法律上開示の義務はないため、それらの記録を出さない会社があるかもしれません。しかし、弁護士を通じて会社に開示請求すれば、応じる可能性が高いでしょう。

4-3:未払いの残業代を計算する

残業の証拠が用意できたら、未払いの残業代を計算しましょう。

基本的な計算式は、

< 残業代 = 時給 × 割増率 × 残業時間 >

ですが、主に以下の点に注意が必要です。

  • 月給制や年俸制で時給換算するとき、含まれる手当と含まれない手当があること
  • 法定内残業、法定外残業、深夜残業、休日残業、月60時間を超える残業でそれぞれ割増率が違うこと
  • 裁量労働制、変形労働時間制、フレックスタイム制などの勤務形態により残業となる時間が違うこと
  • 固定残業代がある場合は、固定残業時間を超える分が対象となること

このように残業代の計算は非常に複雑なので、弁護士などの専門家に計算をお願いすることも検討しましょう

4-4:会社に交渉する

必要な証拠を用意し、未払い残業代の計算ができたら、会社への交渉をはじめましょう。

まず、会社に残業代を請求する内容証明郵便を送ります。これは、残業代請求の時効(3年)の進行を半年間止める効果があるので早めに行うことが重要です。

その後会社から返答があれば、直接の話し合いを通じて残業代の交渉をします。

もし会社が交渉に応じない場合は、労働審判や訴訟等の法的手続きに持ち込む方法があります。

4-5:労働基準監督署に相談する

会社がなかなか交渉に応じてくれない、直接会社に交渉するのは抵抗があるなどの場合、労働基準監督署に相談する方法があります。

そのとき、証拠をきちんとそろえて申告すれば、労働基準監督署が会社を調査し、是正勧告を行ってくれる可能性があります。

ただし、これはあくまで行政指導で法的拘束力はないため、会社が応じない場合があることに留意が必要です。

とくに在職しながら残業代を請求したいと思った場合は、残業代請求後に会社から不利益な扱いを受けるのではないかとためらってしまうかもしれません。

結論として、そのような不利益な扱いがあっても対処できるので、不安に思う必要はありません。

未払いの残業代請求は労働者の正当な権利であり、残業代請求を理由とした不利益な扱いは違法だからです。 以下で詳しく説明します。

5-1:残業代請求を理由とした不利益な扱いは違法

残業代請求を理由に、その従業員に不利益な扱いをすることは違法になります。

まず、想定される不利益な扱いの具体例とその違法性について説明します。

パワハラ
残業代請求を理由に、業務に支障をきたすほどの嫌がらせやいじめを受けたら、その動機からして適法なものとはいえないため、パワハラとして不法行為になり得ます

また、この状態を会社が放置すれば、安全配慮義務違反として会社を訴えることができます

左遷や降格
残業代請求を理由として左遷されたり降格されたりする場合、人事権の濫用と判断され、無効になります。

懲戒処分や解雇
懲戒処分や解雇には、客観的・合理的な理由が必要とされるため、残業代請求が理由となれば、当然違法と判断され無効となります。

5-2:証拠を残して弁護士に相談するのがオススメ

このような不利益な扱いを受けたら、まずは証拠を残し、弁護士に相談するのがオススメです。

人事上の処分に関する書面はもちろんのこと、業務の中で行われる嫌がらせについては、録音やメールを残しましょう。日記をつけて記録するのも有効になる場合があります。

もし残業代請求の段階から弁護士に依頼すれば、会社からの不利益な扱いに対する抑止力になり、万一そのような扱いを受けても対応を任せられます。

結論として、「管理監督者ではない管理職」に残業代が出ないのは違法です。

自分が「管理監督者」ではないかどうかを判断する基準は以下の4つです。

  • 重要な職務内容か
  • 重要な権利・責任を有しているか
  • 労働時間に裁量はあるか
  • 一般従業員と比べて相応の待遇があるか

もし違法であれば、以下の手順で未払いの残業代を請求できます

  • 「管理監督者」ではない証拠を用意する
  • 残業した証拠を用意する
  • 未払いの残業代を計算する
  • 会社に交渉する
  • 労働基準監督署に相談する

また、万一残業代請求後に不利益な扱いを受けても、それらは違法の可能性が高いため、証拠を残し弁護士に相談すれば対処できます。

「管理職は残業代が出ない」という会社の言い分を鵜呑みにせず、違法性はないかを確認し、働いた分の残業代はきちんと獲得していきましょう。